この照らす日月の下は……

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 ミリアリアやトール、サイとともにカナードも戻ってきた。
「ずいぶんと剣呑な空気だな」
 室内に足を踏み入れた瞬間、彼はそう口にする。
「キラのストーカーがザフトにいるかもしれないって言う話になったの」
 即座にフレイが言葉を返す。
「……あぁ。あれか」
 即座にカナードがため息とともに吐き捨てる。
「無駄に優秀だったことと親の立場を考えれば当然だろうな」
 想定の範囲内だ、と彼は続けた。
「問題なのはそれじゃない」
「困ったことに、わたくしの婚約者ですのよ、あれ」
 カガリの言葉に続けてラクスそう告げる。
「婚姻統制か……厄介だな」
 即座に出てくると言うことはよく知られたことなのだろう。
「あちらにすれば、間違いなくあれにお前を救い出させようとするだろうな。そのそばにキラがいるとあれが知れば、無条件で暴走するか」
 むしろラクスのことも目に入らなくなるのではないか。そういうカナードの言葉にキラは少しだけ複雑な表情を作る。
「どうした、キラ」
 それに気づいたのか。カナードが問いかけてきた。
「アスランを知っている人がみんな同じことを言うのはどうしてかなって、そう思っただけ」
 確かに子供の頃はあれだったけど、とキラは続ける。
「だからだろう。あれの性格がそう簡単に矯正されるとは思ってない。父親そっくりだと双子も言っていたからな」
 おそらく一生あのままだ。カナードが断言した。
「そうなると、万が一の時にはわたくしはキラのそばにいない方がいいですわね」
 ラクスが首をかしげながら言葉を綴る。
「そうだな。後はできる限りあいつの目に触れさせないようにするか……あちらにあれに対抗できる人間を確保するかか」
 難しいか、とそうつぶやく。
「大丈夫ですわ。あれと同じ部隊にイザーク様達がいらっしゃいますもの。キラ達があったというザフト兵は間違いなくあの方々ですわ」
 ラクスがほほえみながら言葉を重ねた。
「あの方々のお父様方も立場はザラ様と同じですもの。十分に対抗できます」
 おそらく味方のけがを治すための手助けをしたことで心情的にはキラよりになってくれているはずだ。だから、後は迷惑していると告げればいいだけだろう。
「……迷惑にならない?」
 彼らの、とキラは問いかける。
「聞いた話では、元からあれとの仲はよくないそうですから……そういった点でも問題はないかと」
 何よりも、とラクスは拳を握りしめた。
「キラに不埒なまねをしようとする馬鹿には鉄槌を下してもらわないといけません」
 あいつは絶対に行動に出ようとするはずだ。その言葉に元からいた三人はもちろん、話を聞いていなかったはずのミリアリアの目も据わる。
「そうね。そういう人間はさっさと去勢してしまえばいいのよ」
 フレイがきっぱりと言い切る。
「遺伝子が必要なら、その前に確保して……後は人工授精でもいいだろうな」
 本人がいなくても困らないだろう、とカガリが真顔でうなずく。
「その前につぶしそうだけど」
 一番怖いのは実はミリアリアだったらしい。
 無意識にキラがトールへと視線を向ければ、彼は真っ青な顔で立ち尽くしている。そんな彼の方をサイが軽くたたいていた。
「そこまでにしておいてくれ。さすがに男として聞くに耐えん」
 言っていることには同意だが、とカナードがため息をついた。
「……やっぱり『人違い』でごまかそう? あの頃と性別が違うし……カガリと僕も似ているから、もう一人ぐらい似ている人間がいてもおかしくないよ」
 名前は時々母がつぶやいている『ヴィア』でいいじゃないか。キラはそう付け加えた。
「そうなると別の意味で危ないと申し上げたではありませんか」
 ラクスがそう言ったときだ。艦体が大きく揺れる。
「……戦闘状態に入ったのか?」
 彼が眉根を寄せながらそうつぶやく。
「何かにつかまっておけ。振動で飛ばされないようにな」  だが、すぐにカナードが指示してくる。キラ達はそれに素直に従った。

 パイロットが少ないというのはやはりきついな。
 三機のモビルスーツを相手にしながらムウは心の中でそうはき出す。これがジンであればもう少しましだったのだろうか。
「ったく……作るのはかまわねぇが、奪われるなよな」
 思わずぼやいたとしても誰もとがめないだろう。むしろぼやかずにいられるか、と主張したい。
「さて……無事に逃げ切れるか」
 無理だろうな、とすぐに結論を出す。だが、自分は無理でも子供達だけはなんとか逃がさなければいけない。
 そのためには何をすべきか。
 もちろん、自分が『機体を自爆させて』味方を逃がすのは最悪の手段だから選択はしない。そんなことをすれば、その後何もできなくなる。たとえ捕虜になったとしても生き残る方が最優先だ。
 だが、それも状況次第だろう。
「ったく……どうせ近くにいるんだろう? 少しは手伝え」
 そうつぶやく。
「でないと、うちのお馬鹿が何をしでかすかわからないぞ」
 この忠告は少し遅かったらしい。
『ザフトに告ぐ』
 通信機から聞き覚えがありすぎる声が響いてくる。
『我々はラクス・クラインを保護している』
 その後に続けられた言葉も、ある意味舗装通りのものだ。しかし、とムウは顔をしかめる。
「それは最悪の手段だ、と言ってきたんだがな」
 本気で彼女の耳には届いていなかったらしい。
「どうするんだ? どうせ近くで聞いているんだろう」
 ムウの言葉に答えを返してくる者はいない。だが、それでも相手の耳に届いていることは疑っていなかった。


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最遊釈厄伝